Roxy Music "For Your Pleasure"

音盤時代2012 No.2 特集「ユーモア考」(フィルムアート社)を読んでいたら、ロクシーの"For Your Pleasure"が聞きたくなり、久々に聞き返してみた。このアルバムはロクシーのセカンドで、Brian Eno (ブライアン・イーノ)が在籍した最後の作品になる。イーノの人気に嫉妬したBryan Ferry (ブライアン・フェリー) がバンドにノン・ミュージシャンは二人いらないという理由でクビにしたと語り伝えられているが、現在では和解し、フェリーのソロアルバムにイーノが参加したりもしている。ジャケット見開きのところにド派手な化粧と衣装を纏ったバンドメンバーの写真がある。

曲は"Do the Strand"や"Editions of You"のようなアップテンポでシングル向きのものもあれば、ちょっとダークで生々しい、"Strictly Confidential"や"In Every Dream Home a Heartache"のようなものもある。"In Every Dream Home a Heartache"はメールオーダーで買った風船人形の君に息を吹きかけるという、ある種、捻じれた感覚の映像を喚起させる作品。

"In every dream home a heartache
And every step I take
Take me further from heaven
Is there a heaven
I'd like to think so..."

これを聞いていると、David Lynch (デヴィッド・リンチ)の"Twin Peaks"(「ツインピークス」)で湖からローラ・パーマーの死体が上がる場面が思い浮かぶ。Jack Nance (ジャック・ナンス)(惜しくも亡くなりましたが)が死体を発見して"She's wrapped in plastic!"(「ビニールにくるまれているぞ!」と叫ぶところ。ナンスは"Eraserhead"(「イレイザーヘッド」)や"Blue Velvet"(「ブルーヴェルヴェット」)にも出演している。「イレイザーヘッド」で主演していた髪が爆発したような感じの人。

映画と言えば、Tim Hunter (ティム・ハンター)監督の"River's Edge"(「リバーズエッジ」)http://en.wikipedia.org/wiki/River%27s_EdgeでDennis Hopper(デニス・ホッパー) がダッチワイフ抱えてうろうろしているところも、思い起こされる。そういえばホッパーも少し前に亡くなってしまったが。日本映画では、是枝裕和監督の「空気人形」という映画もあったかな?

ロクシーは次作の"Stranded"から、キーボード、エレクトリックヴァイオリンのEddie Jobson (エディ・ジョブソン) が加入し、このセカンドアルバムに見られるような実験的かつ混沌とした雰囲気は影を潜め、楽曲の完成度は上がっていく。B面の3曲は組曲のように繋がっていて、ループされたフェリーの声の残響が不協和音の中に響き渡るというような、およそ通常のポップミュージックのイディオムから逸脱した、恐るべき展開の果てに終了する。ブルガリアンヴォイスのような不協和音のコーラスに馴染んだ耳で聞けば、さほどの違和感はないかもしれないが、正統的(クラシックのような)な音楽教育の訓練を受けた人が聞くと、気持ち悪いと思ってしまうのではないのか? ノン・ミュージシャンのイーノならではといったところか。このちょっと気味悪いところが案外快感だったりする。絶対音感持ってるような人にとっては論外というか、絶対にやってはいけないことをポップミュージックの領域で堂々とやってしまっているところがおもしろいわけだが。

10代の後半によく聞いたアルバムの一つで、特にA面(当時はレコードなんですよ、まだCDの時代ではない)の曲は歌詞をほとんど覚えるぐらい聞きこんだ気がする。ロクシーは演奏が下手だと良く言われているが、意外とそうでもないんじゃないのか? 技術的に卓越はしていないにしても、音響的な意味では相当進んでいたとはいえるし、楽曲にマッチした演奏をしていたと思う。ベースがサポートプレイヤー(セッション・ミュージシャン)だったせいもあり、リズムセクションは意外に安定している。特にファースト、セカンドにおいては、イーノのノイジーな電子音、Andy Mackey (アンディ・マッケイ) のフリーキーなサックスの音など、AOR的な心地良さを求める人にとっては神経を逆なでされるようなところがないとは言えない。翻ってはそれが魅力だったりするわけなのだが。たまにはちょっとだけ地獄の底を覗いてみたい、という捻じれた願望を持っている人のための音楽。

In Every Dream Home a Heartache

Do the Strand

Strictly Confidential

ブライアン・イーノのヴィデオインスタレーションの一つ。受像機を縦にして見てほしいと当時イーノが発言していた記憶があります。休日の午後あたりにゆっくり見るのに向いているのではないでしょうか。

Brian Eno "Thursday Afternoon"