Suzanne Vega: 大阪ビルボードライブ

 1月21日(土)、大阪ビルボードスザンヌ・ヴェガのライブに行って来ました。実は数日前まで、このライブのことは知らなかったのですが、たまたまタワーレコードで某雑誌のコンサート欄のページを立ち読みしていて気付いたわけです。関西方面に住んでいるわけではありませんし、当日は特に予定はなかったとはいえ、1985年にファーストアルバムが出て以来のファンでもあり、その場ですぐに決めてしまいました。ちなみにファーストアルバム(邦題「街角の歌」)はLPを持っています。CDが普及する少し前の時期のことです。セカンドアルバムからはCDも同時に発売されるようになり、それ以降は当然ながら全てCDで購入しています。、ファーストとセカンドは良く聞きましたが、3枚目以降のアルバムはそれほど熱心に聞きませんでした。それぞれのアルバムに印象に残る曲はあるわけですが。
 
 スザンヌはファーストアルバムからメジャーなレコード会社のA&Mと契約して、定期的に作品をリリースし続けてきました。現在ではそのうちの何枚かが廃盤になっています。昨年末、部屋の整理をしていて、2000年代中盤の自主制作ライブCDを聞き直す機会があり、それ以来、過去の作品を聞き返すことが増えてきました。ちょうでいいタイミングで、過去の作品のセルフカバー集Close-UpのVol.2と3が発売され、年末から新年にかけて時々聞いていました。Close-Upの演奏はもちろん、最近のもので、デビューからはもう、25年以上経過していますが、声の瑞々しさ、若々しさは昔のままです。確かに大きな違いはないのですが、デビュー当時に比べると、表現に深みが出て、声が柔らかくなったような気がします。

 現在の心境については、music OMHhttp://www.musicomh.com/music/features/suzanne-vega_0610.htm のインタビューで次のように語っています。デビュー当時はパンクの影響を受けており、それがライブ演奏に影響を与えていました。当時のライブでは列車が駆け抜けるような調子で全ての歌を2分以内で演奏しており、速ければ速いほどいいと思っていたようです。当時は自分の感情とうまく折り合いをつけることができなかったが、今ではもっと素直に表現できるようになったとか、男女間の恋愛だけでなく、人類愛?のような普遍的な愛について考えるようになったとか、年を取るにつれて変化があったことがわかります。ところで自分の感情に折り合いをつけることができなかったとはどういうことでしょうか? "I've become more connected with my feelings than I used to be"と言っているわけですが、これは直訳すると「かつてよりも私は自分の感情とつながるようになった。」となりますが、日本語としてはちょっと不自然な感じがしませんか。自分と自分の感情が一体のものであると考えると、これは確かに奇妙な表現なのですが、滑らかな日本語に直してしまうと、原文のある種異様な雰囲気といったものが伝わってきません。これは自分が自分の感情を客観的(=客体的)に見ていたということですから、感情に没入していなかったということなんですね。幼い子どもが、こういった感じだと「かわいくない」とか「素直じゃない」とか思われるんじゃないでしょうか。実際、本人もけっこう気にしていたようで、ルー・リードのコンサートに行くまで、「クールであってもいい」とは思えなかったとどこかのインタビューで話していましたね。尚、詳細や経歴や今後の予定等は公式HPを参照してください(http://www.suzannevega.com/)

 さて、前置きが長くなってしまいました。予習というわけではないですが、最近入手したSuzanne Vega: Live at Montreux 2004 (YAMAHA YMBZ10261)のDVDを見て、ライブはかなり期待できそうだと確信しました。このDVDはスイスのモントルージャズフェスティバルの演奏を収めたものですが、何より、リラックスしたバンドの演奏と、出しゃばりすぎず的確に被写体を捉えるカメラワークが圧巻です。繰り返し何度も見たいと思わせるライブDVDは少ないのですが、これはある意味、例外的な作品だと思います。

 ビルボードのライブですが、ステージに向かって右側のテーブル席に座り、登場を待っていました。開園予定時間を10分経過したあたりで、右側からステージ中央に向けて、ギターのGerry Leonardと共に登場。日本語であいさつをし、演奏が始まりました。以下は実際に演奏された曲目のセットリストです。

1. Marlene on the Wall
2. Heroes Go Down
3. Small Blue Thing
4. Caramel
5. Frank and Eva
6. Gypsy
7. New York Is My Destination
8. Anne Marie
9. Harper Lee
10. Tombstone
11. Blood Makes Noise
12. The Man Who Played God
13. The Queen and the Soldier
14. Some Journey
15. Luka
16. Tom's Diner
アンコール
1. Calypso (セカンドステージのみ)
2. Rosemary

 曲間でのトークをいくつか書いておきます。参照(http://www.studio360.org/2011/may/13/suzanne-vega-carson-mccullers/)
5曲目のFrank and Evaはフランク・シナトラエヴァ・ガードナーの有名な結婚と離婚に関する歌で、お互いの愛が十分ではなかったことを歌っています。次のGypsyは17歳の時の経験を書いた初めてのラブソングで、ニューヨーク出身のスザンヌリヴァプール出身の少年が知り合い、別れる前に彼女は歌を贈り、少年はバンダナをくれたと言いました。7曲目から9曲目は、アメリカ南部出身のの作家カーソン・マッカラーズ(Carson McCullors)に関する劇についての歌で、音楽はダンカン・シーク(Duncan Sheik)。New York Is My Destinationは60年代当時のニューヨークが南部出身の女性作家にとって、どれほど憧れと羨望の街であったか、また当時のニューヨークの持っていた人を引き付ける輝きとでもいったものが歌われています。次のAnne Marieでは、結婚、離婚を経て、異性だけではなく、同性の恋人もいた、彼女の恋愛(いや性愛と言うべきか?)についての歌で、Anne MarieはMcCullorsの恋人の1人のようです。Harper LeeはKill a Mocking Bird(邦訳「アラバマ物語」)の作者として知られている作家へのマッカラーズの思い(要するにリーの成功に対する嫉妬ですね)を歌にしたものです。次のTombstoneはヴェガの家族が飼っていた17歳になる猫が亡くなったときの埋葬についての曲ですが、その埋葬の仕方がちょっと変わっていたようです。スザンヌの母は猫にシャンプーをして体を清め、筏に乗せた箱に猫を入れて、イーストリバーに流し、その筏ごと火葬にするという、ちょっとやりすぎな感じの派手な埋葬をしたわけです。後で彼女は母に電話で、「私が先に死んでも、あんな葬儀はしないでね。私は、大きな大理石に名前と、日付が刻まれていて、花が供えられ、墓石の前にベンチがあるような、そんな葬儀にしてね。」と伝えました。10曲目のThe Man Who Played Godは世界を変えることができると信じていた画家パブロ・ピカソに関する歌で、ロックバンド、スパークル・ホース(Sparklehorse)のリーダーでシンガーでもあった(2010年3月6日に自殺した)マーク・リンコス(Mark Linkous)に捧げられています。
 
 ファーストセットもセカンドセットも同じ曲で、違いはセカンドのアンコールでカリプソが付け加わったぐらいのものです。そういえば、ファーストでは髪を束ねていたのが、セカンドでは下していました。本人もこのことは言及していましたが。セカンドセットもファーストとほとんど同じ展開だったのですが、ダレたり退屈したりすることなく楽しむことができました。セカンドステージの冒頭で、「続けて見てる人いる?」と聞かれたので、すかさず手をあげたのですが、どうも私ひとりだったみたいです。おそらく他にも何人かいたのではないかと思われます。サイン会の時に両ステージ見たと告げると、「どっちが良かった?」と尋ねられたので、「セカンド。」と答えました。本当は他にもっと、聞くべきことがあったと思いますが、緊張してしまい、あまり気の利いたことが言えませんでした。
 同じ内容でも繰り返し見たいと思わせるライブでした。デビューから25年も経つと、声や外見が変わってしまう人が多いと思うのですが、あまり変わっていないことに驚きました。女性なので、肌の荒れとか、しみとかはやはり気になるようで、Rod StuwartのMaggie Maeのアンサーソングである、I'll Be Your Maggie Maeで、そのことに触れていますね。毎年、年を重ねていくと、容貌も体力も衰えていくのがわかり、ちょっと落ち込んできたりもします。でも年を取るのも思ったほど悪くないのかもしれないなということを感じさせてくれたライブではありました。スザンヌの変わらない声と歌(明るい曲はあまりありませんが)に少しだけ救われた気がしたのは私だけでしょうか。また近いうちにどこかの演奏会場で再開できればいいのですが。