Noël Akchoté "So Lucky"

"So Lucky"はギタリスト、Noël Akchoté (ノエル・アクショテ)による、Kylie Minogue (カイリー・ミノーグ)の曲のカバー集。Akchoté はフリー・インプロヴァイザーとして広く知られており、Derek Bailey (デレク・ベイリー), Engene Chadbone (ユージーン・チャドボーン), Fred Frith (フレッド・フリス)等とも共演している。

Derek Bailey (Wikipedia): http://en.wikipedia.org/wiki/Derek_Bailey_(guitarist)
European Free Improvisation Pages: http://www.efi.group.shef.ac.uk/
デレク・ベイリー追悼: http://www.jazztokyo.com/rip/derek_bailey/baileyb.html
Engene Chadbourne Official Website: http://www.eugenechadbourne.com/eugenechadbourne/default.htm
Fred Frith Official Website: http://www.fredfrith.com/

Kylie Minogueはオーストラリア出身のポップスターで、1986年の"Locomotion" (1962年Little Evaのヒット曲のカバー)での大ヒットを契機として、当時ヒットメーカーとして知られていたStock, Aitken & Waterm" (ストック・エイトキン・ウォーターマン)に作曲とプロデュースを依頼し、ヒットシングル"I Should Be So Lucky"の収録されたファーストアルバム"Kylie"を発表。1995年にはNick Cave (ニック・ケイヴ)とも共演し、初期のユーロビート主体のアイドル路線から徐々に転換を図る。2001年に発売された8枚目のアルバム"Fever"は世界的に大ヒットを記録し、シングル"Can't Get You Out Of My Head"は40か国以上でナンバーワンヒットとなり、セールス的に最も成功した。 その後、間に何度かのライブツアーを挟み、2010年に最新作である11枚目のアルバム"Aphrodite"を発表。日本では初期のヒット曲を除くと、あまり知られていないようですが、オーストラリアやヨーロッパではセールス的にも順調で、ライブも毎回スタジアム級の大規模な形場所で行われている。
音楽活動は至って順調なようですが、私生活は必ずしもそうばかりではなかったのではないでしょうか。元恋人でINXSのヴォーカルであったMicheal Hutchens (マイケル・ハッチェンズ)の自殺とか、乳癌の発覚(早期発見のため、順調に治療は進んだようです)などもありました。そういえばINXSの"Suicide Blonde"はKylie Minogueのことを歌った曲のようです。KylieはMadonna (マドンナ)のようなあからさまな政治的主張などはなく、今一つ注目は集まりにくいところがありますが、作為的なあざとさが見えないのがいいですね。

Kylie Minogue Official Website: http://www.kylie.com/
Kylie Minogue (Wikipedia): http://en.wikipedia.org/wiki/Kylie_Minogue

ところで、Akchotéの"So Lucky"なんですが、確かにカバーアルバムではあるのですが、何かが、いわゆる通常そのあたりに出回っているものとは違っている。シンプルなギターソロで、何か特別な仕掛けがあるわけではない。ライブでも同じやり方で演奏されており、編集なしの一発録りと言われても、納得するぐらいの、それこそ骨組だけでできているように聞こえる。フュージョン的になめらかに流れていくのではなく、つっかえ、かすれ、どもっているような音。音空気の振動により発生するが、ある音の次に別の音が続き、また次の音というように、音の音の連なりが有機的な意味を持っているように思われるときに、それが「音楽」と呼ばれる。線が点の無限の集まりのように、ある音と次の音とのつながりは自然なものではなく、ある種の錯覚として、それがつながっているように聞こえているのではないか? ここでのアクショテの演奏は、音楽がなめらかな直線ではなく、点から点への移動であり、でそこには摩擦と抵抗があるということを示しているように思われる。ことばはその場にないものを頭の中に想起するために発せられる。ここにはない何かをこの場に現出させるために。それは必ずしも実在するものではなく、イデアとか概念といった抽象的なものといったほうがいいかもしれない。音楽も似たようなもので、音楽を奏でることにより、何かを呼び出しているとは考えられないだろうか? もちろん、ここにはKylieはいない。物理的にはその場にいないはずの対象をなんとか現出させようとする失敗が必然的であるような無謀な試み。無防備に爪弾かれるギターの音が奏でるのは、不在であるKylieへの成就しない愛。不在であるがゆえに募る思いそのものかもしれない。

Noël Akchoté (Wikipedia): http://en.wikipedia.org/wiki/No%C3%ABl_Akchot%C3%A9
Winter & Winter Official Website: http://www.winterandwinter.com/